内面劇場

本の感想をメインに書いてます

『名刀と日本人』日本刀と人の関わりは切っても切れない

日本刀は武器でありながら、守り刀のように神格的な要素をもつ不思議な存在です。
武器としての用途を失ってもなお、その美しさから美術工芸品として現在でも高価なものに変わりがないのが面白いと思います。

この本は、日本刀と日本人の関わり方の一つとして「贈答」に終点をあてて8つの章にわけて語られています。私が日本刀に興味を持ち始めて間もないころに読んだのですが、日本刀の知識などなくてもとても面白く読むことができました。
有名な武将や、刀に伝説があったり、妖怪が出てきたり、実在する時代にファンタジーが盛り込まれているので、日本刀の知識と一緒に歴史にもまた興味をそそられます。

読んだ中で、私が印象に残った刀は『名物分部志津』です。この時は、ほとんど日本刀を目にしたことがなく、こんなヘンテコな模様(皆焼のような)が刀剣のイメージになかったのです。

そりゃもうインパクト大です。

その模様はヘンテコといっても、著者の例えのとおり、入道雲のようで、シロクロの写真ながら美しいなぁ〜と見惚れました。失敗作だとのことですが、成功は失敗のもとともいいますしね。実戦向きではなかったのかもしれませんが、魅力的な姿となり後世に残ったことは有難いことだなぁと思います。

私が日本刀にハマった時期が、ちょうど日本刀の大ブームと重なり、いまではあっちこっちで大切に保管されていた沢山の刀達を鑑賞することができました。
ただ日本列島津々浦々行く資金は乏しく、いまだにこの分部志津にで会えないままです。

いつか機会が巡ることを祈って…

 

『名刀と日本人:刀がつなぐ日本史』 

著者:渡邉 妙子

 

お読みくださりありがとうございました

 

 

『死霊解脱者物語聞書』世の中には嘘のようなホントの話があって

 

累-かさね この名の女性は有名ですよね。様々な物語がつくられていますが、それらの大元となった、とある村で起こった事件を実体験された方々から聞き書き起こした本です。

死霊解脱物語聞書をWeb検索すれば沢山の情報が載せられています。それで殆ど分かってしまうのですが…紙の本が好きなので。

こちらの本は、江戸時代に書かれたものを現代の読者にわかりやすい状態に活字化されたものです。漢字は現代使われているものに変換されていますが、仮名遣いは底本のとおりになっているため、少々読みづらいのですが、わからないことはありません。

大変親切なのが、各章ごとに大意として現代語訳を載せています。先にその現代語訳を読んでから、原文を読むほうがわかりやすいと思います。

あらすじを簡単にいいますと
1672年江戸時代、茨城県にある当時羽生村という里で起きた怪事件。
顔の醜さから夫に殺されたことで、悪霊となり後妻を次々と殺し、ようやく産まれた子、菊に憑依し、夫へ恨みを晴らしにきた累。夫、与左右衛門の悪行を知った村人たちと、祐天上人によって累の救済に奮闘する話が語られています。

初めの章から、いきなり殺害現場を語る構成で人々を引きつけます。以降、憑依した累と与左右衛門、村人達とのやりとりが細かく描写されていきます。

物語のだいたいが名主がメインとなり村人たちが菊に取り憑いた累と話をし、累の救済のため供養をしてゆきます。ヒーローのように書かれている祐天上人が登場するのは後半です。

私は、祐天上人が凄い法力でスカッと悪霊退散すると思っていたのですが、なんというか、当時まだ学僧であったからなのか祐天上人は法力で解決してないんですよね。
だいたい力技で悪霊(て、実体は14歳の女の子)の髪の毛引っ掴んで床に叩きつけて痛めつけてるんですよね…
『菊を殺して俺も死ぬ』とか脅し出すし。
荒療治ですが、一旦累が離れ衰弱した菊を誰よりも気遣ってくれた心優しい方であったようです。

この話は累の怨は夫に対してだけではなく、非情な理由で殺された自分を見て見ぬふりをし続けた村人達への復讐でもあるように思われます。
菊に憑依した累は、村人の亡き親兄弟は殆ど地獄行きだと、悪事を詳細に公表し村人達は自分達だけではなく噂を駆けつけ集まってきた近隣の村々に羞恥をさらすことになります。因果鳳凰、現世の行いが極楽浄土へ行けるか地獄行きになるか、仏法説話としても世に教えとなる話になっててただの実話を後世に残したかっただけではないのですね。

そんなほんまかいなって話ですが、累の供養のための石仏が存在しています。茨城県の法蔵寺というお寺です。石仏だけではなく、祐天上人が使用した数珠も保管されているそうです。

www.ibarakiguide.jp

 

『死霊解脱物語聞書』 解題・解説:小二田誠二

 

お読みくださり ありがとうございました

『瑠璃宮夢幻古物店(全7巻)』自分が選んだモノなのか、モノに選ばれたのか。

 

古いものは好きですか?

私は古本や古道具など好きなほうです。時代を経て自分の元に巡ってきたんだなぁと思うと、歴史を直接感じることができて感慨深くなります。
反対にかつての所有者がどのような気持ちで手放したのか。ふと、気になってしまいます。
誰が使ったかわからないため、気持ち悪い気もします。
1人の使用だったのか、数人の手に渡ってきたものなのか、ただの物として扱われたのか、思い入れが篭った物なのか。

よく念が宿るといいますよね。
自分でも、思い入れのある物は愛着がわき、他のものとは違う気持ちで接してしまいます。

この物語は大正時代から続く古物店のお話です。
こちらで取り扱う商品はただの古道具ではなく、意思を持って生きているかのように人を惹きつける、いわくつきの道具です。
店長曰はく7、人と物は互いに引き合うのだという。魅入られた人の手に渡る際、店長はそっと、忠告をします。

ですが殆どのお客様は、気にすることもなく、躊躇することなく手にした道具をいとも簡単に使用してしまいます。まるで物に操られるかのごとく。

店長こと、瑠璃宮真央は多くを語らず人と物との行く末を静かに見届けます。そんな彼女の元へ、道具の作用によって家族が崩壊してしまったとある女性が逃げるように弟子として住込み始めます。
道具の恐ろしい一面を体験を持って味わった彼女は、いわくつきばかり扱う真央に疑問を持ちつつも、店長の人と物のありかたに対するスタンスを理解しつつ自分ならではの考え方をお客様を通じて、模索しながら家族の修復に、奮闘します。

1話1話、メインの登場人物が違いそれぞれ魅せられた道具を手にしていくのですが、不思議と購入者同士の接点もできてきます。

何故、真央はいわくつきの道具ばかり集めるのか、彼女は人間なのか…など道具だけじゃなく、店長にも目が離せないストーリーとなっています。

古道具に魅入られた人々ががどうなっていくのか、また向き合ったことで何が変わるのか、ささいな日常の心の闇をコントロールするのは、自分なのかモノなのか。
読み終えたあと、ふと街角で瑠璃宮夢幻古物店を見つけた時、あなたは利用したいですか?まあ、見つけた時点であなたはモノに魅入られてしまっているのですけどね。


ー思考ー

モノが意思を持ち始めたとしたなら、それは作り手や使い手の心象に大きく影響されていると私は思います。
ならばもし、私が【文章の達人になれるメガネ】をかけてブログ作業に没頭し、自分でも信じられないくらい感動の出来栄えで、大反響だったとします。
果たしてそれは『私の才能が最大限に引き出された』のでしょうか?
メガネに宿る誰かが『私を使ってその誰かが自分の意思を遂行している』に過ぎないかもしれません。

        怖いです。

そうだとしても一度味わった栄光を捨て去ることは難しいことでしょう。悩む間にどっぷり浸食され…

今までのこのブログも、念のため読み返してみましょう!

…どうやら今のところ、そんなメガネを使用した形跡はないようです………はぁ。

 

※ご紹介した作品に“文章の達人になれるメガネ“は登場しておりません。よにこ の妄想です。

 

『瑠璃宮夢幻古物店』 著者:逢坂八代

 

お読みくださり ありがとうございました

『星の王子さま』愛されて、翻訳は星の数ほどあるスーパースター

 

今やこの題名を知らない人はいない。と断言できる世界の名作のひとつではないでしょうか。

そのわりに、じゃあ内容を詳細に話せるかと言われれば、あまり詳細に語れるほど正直記憶してない。
というのもこの物語の特徴ではないかと思うのです。

因みに私が思い出せたのは、小さい男の子が旅してる話でウワバミ、バオバブ、赤いバラが登場してた。
以上。これは私の記憶力が壊滅的なだけかも…?

 

記憶もないくせに、本屋でこの本を見かけると、無機質な少年の表情に
なんとなく切ないような感傷的な気持ちになるのは不思議で。

 

 気になって久しく、『星の王子さま』を買ってみました。
探してみると訳者が異なるものが4冊もありました。
家の近所のスーパーの中にあるそこまで大きくもない本屋に。需要ありすぎです。

でも、その中に私が子供の頃、本の中で出会った『ウワバミ』がいないのです。
『ボア』や『大蛇』が主流になってしまっていました。

何故そこだけ変える?と疑問を持ちながら、更に大型書店で探してみると、
ありました!私の記憶の中の数少ないキーワードの『ウワバミ』が。

 

内藤 濯さんの訳で書かれた『星の王子さま』。
この方が日本語版を初めて翻訳されたと今になって知りました。そしてこのインパクトある題名も内藤さんによる創案であるということも。

 

訳者が違うからといって、言い回しの違いがあって多少言葉の与える印象が違うことはあれど、物語の筋が変るわけもなく同じなのです。
この本の面白い部分は、むしろそれぞれのあとがきだと私は思いました。
同じ本、それも既に翻訳されている本を各訳者がどのように向き合い、言葉を選んで完成させていったか知ることができ、個々の「星の王子さま」のとらえ方が書かれていて面白いです。
そして、この物語を読むにあたって、どの本にも作者アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリさんの生涯について説明がありました。
それらを読むと、この本は、完全なる架空の物語ではなくて、作者の物語のようでもあります。が、作者は言ってました「レオン・ウェルトに」と。

主人公のパイロットと小さな王子さまの関係は、自分自身でもあり、サン=テグジュペリさんにとってはレオン・ウェルトさんレオン・ウェルトさんにとって、サン=テグジュペリさんを映し出すのかもしれません。

無数の星空の中に、お互いを見つけ微笑みあえるように。

 

星の王子さま』 著者:サン=テグジュペリ

今回、画像紹介に使用した本は、私が初めて読んだ訳者の内藤 濯さんの岩波文庫本です。内藤さんのあとがきとご子息である内藤初穂さんのエッセイ、サン=テグジュペリ略年譜が収録されています。ちなみに、内藤 濯さんと河野 万里子さんのあとがきで、レオン・ウェルト(ヴェルト)さんについて少し書かれてあります。

 

お読みくださり ありがとうございました

1年ぶりだと新鮮に思える日常のこと

先日、コンサートに誘っていただき、1年ぶりにホールなる場所に訪れました。
振替公演だったので、もっと人少ないかと思ったら割と満席で。
皆さん1年強、大事にチケット持ってたんですね。
ご本人もとても感謝されてました。

チケットの半券に名前と電話番号と記入必須で、検温。
公演中に大声出したらダメやけど立って軽くノルのは許す。

だいたい私は立ってても座ってても凝視してるのが性に合うので、座って見れるなら座って凝視です。アーティスト泣かせの不動凝視です。(拍手くらいします。)
こういう形で楽しむ人間がいるんだってことを理解してもらえる日々を願います。

 

ま、そういうことは別として。
この1年ぶりのコンサートで、すっごい久しぶりだったことが、
「わ~私、数メートル先を見つめてるのすっごい久しぶり!(後方の席でした)」ってことでした。
この1年、仕事でパソコン、通勤は読書かスマホ。休日はTVか読書かスマホ。出かけても買い出しくらい。とくに遠出して景色を楽しむこともない毎日を続けていたので、
遠くを2時間くらい見てることが新鮮でした。

たとえアーティストの表情までは見えなくとも、日々酷使してる目の休息になったようです。

『怪談と名刀』刀工についても勉強になる刀剣ダークファンタジー

 

刀剣好き怪談好きに持ってこいのこの本は、日本刀をメインにした28作からなる逸話集です。

日本刀も名刀になると「号」がつけられますが、その由来となる逸話が載っています。

日本刀は古来より神的な役割をもっているせいか話の中も妖怪退治ものが多く、悪を断ち切る意味合いが強く込められていたのかもしれません。

如何にこの刀が優れているか、主人にとって勝利を与える存在かということが読み手に伝わるようにドラマティックに作りあげられているので、それぞれ短編ながらも、読み応えのある作品です。


そしてもう一つ、楽しいと思ったポイントは話の後に、登場した刀剣を作った刀工について著者が解説をしているところです。
日本刀は、真正を見極めることはとても難しいので、著書の見識が全く正しいかは正直わかりませんが、明治時代から昭和中期のまだ日本刀や軍刀が身近にあり、趣味で刀剣研究をされていた著者ならではの知識が学べて勉強になります。

 

私は日本刀も好きですが、元々宝剣など伝説から入ったので、やはりウソだとしても逸話がある刀剣というのはファンタジーですよね。好きです。

 本のあとがきによると、もともと本書は、昭和10年に刊行されており、その中から怪談色の強いものを精選されたそうです。じゃあ後何作品か刀剣にまつわる話があるってことですよね?気になる・・・いつかそのまま復刻してくれんかね

 

『怪談と名刀』 著者:本堂平四郎 編者:東雅夫 

 

お読みくださり ありがとうございました。

 

『どこかにいってしまったものたち』~片づけなくても大丈夫。脳内で整理できてます。

注:別に片づけが苦手な人のための収納術の類の本ではありません。

 

「不思議の品売ります」

手の込んだ創作カタログ本。とでもいいますか、
クラフト・エヴィング商會が取扱ってきた商品の中で明治時代の商品から始まり、大正、昭和と、どこかにいってしまった商品のわずかな資料を集めた「不在品目録本」です。

目録を少し紹介しますと
 ・硝子蝙蝠
 ・万物結晶器
 ・アストロ燈 (大ヒット商品だったとか・・・)
 ・時間幻燈機

どうです?商品名を聞いただけで、なんだかワクワクしませんか。

この本に登場する、かつて存在したであろう とっても不思議な商品の説明書やパンフレットがすべて著者による手作りなのです。

それぞれの商品を時代ごとに紹介しているのですが、パンフレットや説明書のデザインを作るだけではなく、説明文もその時代に合わせた文体や字体で、しっかり細かく作りこまれているので本当にその商品が存在していたのではないかと錯覚してしまいます。

これらの作業については三代目として引き継いだ著者が、最後の項、「平成」でお話しされていますので、始めにそこから読んでも、楽しめると思います。

 

そして、著者は読み手にも「どこかにいってしまったものたち」に、思いを馳せることをお勧めされてます。
この本を通じて、引き出しや押し入れに仕舞い込んだものを見つけてみてください。
あの頃大好きだったもの、大事にとってそのまま忘れてしまったもの。
懐かしく、また新しい発見に繋がるかもしれません。

 

私は…そうですね。部屋を片付けようとして、読みふけったり、思い出に浸ってしまい結局、片付かないタイプなので、脳内で整理しておけば大丈夫です!

あ、こんな時こそ、この本に紹介されていた『万物結晶器』で結晶化できれば思い出の品々がコンパクトにまとめられて、お部屋もスッキリ出来たというのに…!!

 

『どこかにいってしまったものたち』

著者:クラフト・エヴィング商會

 

お読みくださり ありがとうございました。