内面劇場

本の感想をメインに書いてます

『異人たちとの夏』癒しと刺激のその先へ

夏本番でもないのに暑い日が続きますね。
怖い話がたくさん出る季節になりました。
私は今まで出会ったことがないのでどんなんかわかりませんが。出会っちゃう人によると、普通の人間と変わらないといいます。なので周りの反応で、ああ 違ったんか。と1人合点するらしいのです。
この作品ではとある条件のもと、主人公と関係ない人にも見えています。

 話は主人公、田原の離婚から始まります。切り出したのは自分からだっだものの、実は妻にはもう新しい相手がいて、それが自分なりに信頼を寄せていた仕事仲間の間宮だと知り、心身共に傷つき疲れた彼はある日、夕暮れの寂れた寄席で亡き父にそっくりな人に出会います。子供の頃に死に別れた当時の姿そのまま30代の両親が、40代になった自分のことを息子として当たり前に迎えてくれます。ありえない事だと思いつつ、この異空間が彼の理想郷となっていきます。
 また同時期に、彼の元に同じマンションに住むケイという女性が現れ交流が始まります。ケイとの時間は現実の孤独を埋めるのに互いに都合の良い形となり自然に恋人の関係になります。人に簡単に話せない亡き両親との交流、新たな恋人と、彼は段々と心が晴れやかになり、生き生きとしてゆきます。しかし実際、周囲から見える彼の姿は青白く痩せこけ、今にも死んでしまいそうでした。
そうです。彼はまさに生死の間際にあったのです。

 

 単なるホラーではなく、懐古ファンタジーな要素もあり、割とあっさり終わるので鬱々することないです。(主人公と両親の交流したあの街の情景がなぜだかとても気に入って、私も一緒に入り込み、昭和の初めの街並みを私はついひとり想像の中歩いてしまいます。)
妻と息子に見放され、身寄りもなく孤立した中年の男性に純粋に甘えられる居場所と、年下の美しい女性との後腐れのない愛欲が与えられ、さらには疎遠になった間宮との修復、なんならうまく付き合えなかった元家族にも向き合える自己の成長もあって滅茶苦茶いい事づくしでほんと理想が詰まったお話です。

自己の成長というのが一番大事かもしれないなぁ。
田原と間宮の関係を見てると、人間関係について考えされられます。
普段つかず離れずでプライベートは極力踏み込まないけど、相手の本質を見ているっていう才能。

 最近気づいたのですが、私は主人公寄りの、『他人に意識が向かないタイプ』なので、いつも自分の内面世界にだけ向き合ってるんですよね。パラレルワールドで現実逃避してる場合じゃないのよね。

 

異人たちとの夏』著者:山田 太一

 

お読みいただきありがとうございました。