吸血鬼というと、人の血を吸う危ないヤツだから、徹底的に仕留める必要があって、例えば心臓を杭で打つとか、銀の球打ち込むとかニンニクだとか祈りだとかで倒された吸血鬼が、昇る朝日と共にサラサラ……と存在まで消される。みたいな、とにかく吸血鬼になったら一生吸血鬼であることが大半です。
そんな中、ブルガリアの昔話という本で紹介されている「吸血鬼の花嫁」というお話は、元の人間に戻れ、人間同士としてハッピーエンドを迎えます。
吸血鬼から人間に戻る物語は他にもあるのですが、この物語ほどロマンチックなストーリーはないのでは?と思うほどロマンチック・ファンタジーです。
このテの物語の要は「吸血鬼」は「呪い」であり、設定はやはり、人の血を吸う危ないやつなのですが、とある行程(試練)を踏むと、呪いが解けて吸血鬼から人間に戻れるというのです。
吸血鬼になってしまった若者は、愛する娘を手元に置きつつも、娘を殺さないように人間の自制があり憎めないキャラです。
しかし、相手が吸血鬼だと知らない娘は、姿を見せない若者に不信を抱き、また暗い地下に閉じ込められてお家に帰りたいと泣いてしまいます。
実家に戻ることで、彼が吸血鬼であること、吸血鬼の呪いを解く方法を知り、娘は呪いを解くため奮闘します。
“眠っている吸血鬼の心の鍵を開けて中をのぞく”こと。これが解き方です。なぜ、心の中を暴くことが呪いの解放になるのか。呪いの素みたいなものは、呪いをかけられた人間自ら取り外すことができないみたいな設定なのかもしれませんが、覗いた場面に対してとくに核みたいなものがないので、謎です。
ま、失敗したら殺されるような命懸けの試練をやり遂げるという、これはもう、心から愛する人の行動が肝です。
吸血鬼のイメージを崩さずに、呪いや試練を盛り込むことで、吸血鬼=悪または、得体の知れない存在でも理解、共存できると希望や祈りを込めたのかもしれません。
この物語の1番不思議なところは、娘の父君です。見初めた相手の心を射止める金のリンゴなんてどこで手に入れたん?
(『吸血鬼の花嫁』は2種類あるようで、とくに心の扉を開けたくだりに違いがあるようです。訳者の八百板さんは、テメヌーガ・ゲオルギーヴァの語りを訳され、『スラヴ吸血鬼伝説考』の著者、栗原成郎さんは、『ブルガリア民衆文学』の話を訳されているようです。八百板さんが訳された話がよりロマンティックになっています。)
吸血鬼の花嫁(ブルガリアの昔話)福音館文庫F13
2005年11月15日 初版
編・訳者 八百板洋子
画家 高森登志夫
発行 (株)福音館書店
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